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いらない夜


 
 
 「大佐、判っておられるのですか?!」
 東方司令部、深夜一時。
 ロイ・マスタングの執務室に女性の凛とした声が響き渡る。
 もう、この時間ともなれば夜勤の者しか居ない。だからこそ、リザも遠慮なく声を荒げる事が出来るというものなのだが。
 「ああ、判った判った。」
 五月蝿い、とばかりに腰を下ろし背もたれにどっかりともたれかかった横柄な態度で、ロイ・マスタングはリザに向かって手をひらひらとして見せた。
 「何度言えば判るんですか?
 半月以上お溜めになったものを、ほんの四時間足らずの残業でこなしてしまうのならば、毎日こつこつやってくださればすむ事でしょう?」
 だんっ、とリザは執務机に両手を付いて抗議する。
 もちろん、これも毎月のように繰り返されるやり取りで、どれだけ行っても堪えては居ないのもわかっているのだが……だからと言って、いわずに収まる憤りではない。
 「中尉。」
 ロイが立ち上がり、テーブルに付いた腕を引き唇を重ねてきた。
 またか、とリザは溜息をつきたいところだが、口を塞がれたまま諦めるように目を閉じる。
 
 唇を重ねて、顔に触れられ。
 唇の離れる度に、愛してるだとか、何とか。
 歯の浮くような言葉を囁かれて。
 
 心にも無いような、美しく飾り立てた言葉を
 囁かれて。
 
 嘘を付く、ロイの顔なんて見たくない。
 その表情を覚えてしまえば、普段囁かれる愛のことばさえきっと、贋物だと気付いてしまうことになるから。
 
 ロイ・マスタングは誰も、愛したりしない。
 誰も真剣に愛する事などできないのだ、だって、そうではないか。
 誰よりも彼自身を、彼は大切にしている……。
 
 唇を塞ぐのは、私の五月蝿い口を文字通り塞ぐ為で、同時に彼の趣味をも兼ねているんだろう。
 嘘だとわかっていても、涙が零れそうなほどに、偽りの言葉に、誤魔化しの愛撫にうっとりと堕ちて行く私がいて。
 
 ロイが腰に手を伸ばし、軽々と体を持ち上げると、机を越えさせて抱きしめた。
 そのことの意味だって、判っていないはずがない。
 
 愛している、愛していると、囁いて。
 本当は、誰でもいいはずの体の欲望を私で満たして。
 言葉と唇と身体とで、階級以上に私を縛る。
 
 ロイの唇が首筋に触れるのも、その間にも大きな手の平が好き勝手に体中を撫で回すのも。
 ふれているだけのような振りをして、その手の平が軍服を少しずつ脱がしていってしまうのも。
 馴れたものだ。
 
 そういう形で、繰り返し繰り返し、触れられて、組み敷かれて、奪われて、その度に私は雁字搦めに自分の気持ちに縛られていく。
 
 
 「やめてください。」
 リザの軍服は、もう殆ど床に落とされていてロイのそれも殆どを脱いでしまっている。
 止めれるはずがないのは判っていて、リザは拒んだ。
 「無理だね、判ってるだろう。」
 ロイは言い聞かせるようにいうと、リザを後ろから抱きすくめて片手で口を塞いだ。
 リザの体を自分の膝に乗せるようにして貫いた。
 結局拒み通す事など出来ないのだ。
 リザは、ロイを愛してしまっているから。
 押さえられた口からは、拒む言葉を封じられると同時に、昂って零してしまいそうになる「愛している」も同時に封じてくれた。
 そして、快楽がもたらす、声すらも。
 リザが涙を流したのは、肉体的な苦痛に拠る物でも、快楽に拠る物でもなかった。
 ただ、辛いのは心。
 そんなことを、きっと彼女の上官は、気付きやしないのだろうけれど。
 
 
 リザの中に全て吐き出した男は、うっとりと耳元で空っぽの愛を囁いた。
 「聞きたく、ありません。」
 自由になった口が、最初に紡いだ言葉はそれだった。
 「愛してるなんて、いわないで下さい。」
 私を縛るための嘘など、上手に綺麗な言葉を捧げたりしないで。
 そんなもの無くても、私はあなたのためにここにあるのだから。
 「すまない、どうしても気分が悪かったのか?」
 流石に顔色を変えたロイが訊ねてきた。
 「はい……そのようです、苛立ってしまって申し訳ありません。」
 気分が悪い。
 
 それは正しかった。
 どうして、自分が想うのと同じ重さで相手には想ってもらえないのだろう。
 寂しそうな顔をしてこちらを見つめるロイは、本心から、愛してくれているのかもしれないと、期待してしまう。
 ……でも、それを信じられる理由が、リザには無かった。
 
 
 どんなに、抱きしめあっても心が届かない。
 心が理解らない。
 これ以上ないほど、傍によって
 一つになってしまっても
 余計にロイが遠く感じてしまう。
 
 それならば私は。
 そんなものはいらない。
 こんな夜は、要らない。
 
 切なくなるだけだから、もう、二度と要らない。


■後記■
裏サイト消そうかな。
真剣に向いていないようです、こんなの10日がかりってどうよ(死)。
やはりストーリーのあるちょっとエロっぽい話、くらいのほうが得意らしい。
漫画のモノローグだけのような、痛々しいことに(死)。
ちなみにハボアイはまだ作成中・・・・・・縛りだしちゃったし収集付かないんです、あっちは(死)。
うーん、どうしたもんだか。
怪しいネタトークは好きなんですけどね・・・・・・・エロって書いてると笑えて来るので(爆)

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